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色彩感覚について


ここのところ少し、画きあげる絵の色彩の彩度が落ちている。
なんとなく、梅雨空のようにすっきりしない色味を使っている事に気がついているのだが、その色味を上げる事ができないのだ。

彩度はまるで音階のオクターブにも似て、ハイトーンの色味には、リストのカンパネラのように高音音域でピアノを奏でるように、ハイトーンの色味をぶつけて画きあげる事が多い。
彩度と透明感は絶対的数値で分析する事はできないが、感覚のさじ加減で画面の中で構築され、何か変、これが心地よいといった感覚で、色々な色が選ばれて、重ね塗りされ、そして仕上げられて行く。

色味のぶつかり、面積も、全く感覚のさじ加減で、ほんの少しで良い色を、沢山使ってしまうと、とたんに不協和音のように画面が音をたてるように、崩れるのがわかる。
具象でありながら、抽象的色彩の要素がテーマの絵の場合、ほとんどが色彩構成で、最後の部分だけ、具象的要素を描き入れるような仕事の手順になる。なので、最初の地色を作っている段階で、うまく色彩があっているときは、冗談で、無題「地だけ」なんて題名の作品にしたくなることもある。

私は極彩色に近い色数を使う絵描きのイメージを持つ方が多いが、実はハイトーンの色味に変わるために一つの仕事がきっかけになったことがある。
それは、息子が生まれたばかりに近い時だったので、今から25年くらい前、三菱鉛筆の企業向けカレンダーのお仕事をいただいたとき、そのときのデザイン事務所のアートディレクターの方に、特に彩度を上げて、鉛筆会社のイメージの、明るい画面にすることを、再三強調されたのが、きっかけだった。

自分では出せない明るい色味を、もっと明るく、もっと上げてと言われてまるでヴォイストレーニングをするように、高音域の声を出せるように発声するみたいに、自分の色彩感覚を広げる努力をする事によって、今現在の色調の自分の素地が出来たのだと思う。
そのときのディレクターの方の指導は、大学では教わる事のない勉強で、本当に感謝している。

色彩感覚は、生まれつきと言う人もいるが、絶対音階のようなものではないと、私は感じている。
色彩感覚は訓練によって、どんどん広がるものだと、自分の経験では感じるからだ。

ただ、最近感じるのは、やはり色調や彩度などは、かなり精神的なものからも影響を受けるような気がする。
どうしても、青空の色を澄み切った透明な色を出すことが出来ず、ルソーブルーと自分では呼んでいる、少し緑ががったエイジングされた色味がしっくり気分に馴染む事もあるからだ。
やはり、絵は心を映し出す鏡のような要素もあるのだと思う。

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